昨日、二日続けてNHKの証言記録 「日本人の戦争」を見ました。3日の証言は、大陸中国で、日本兵がいかにふるまったかの証言記録です。今まで伝聞として語られてきた日本兵の中国での残忍な行為が、ここでは、はっきりとした元兵士による証言として語られています。虐殺、暴行、略奪などがなまなましく証言されています。かつてこのような証言を元兵士の証言として語られた映像を見たことがなく衝撃でした。4日のフィリピン、沖縄などでの日本兵や住民の証言もこれまで直接、聞いたこともない人肉、集団自決などで、これも衝撃でした。すべての証言に、涙がでてとまりませんでした。小生は、軍隊内での自殺、食肉などのことが問題化されない戦争反対など表面をなぞるだけで、本当の戦争反対にむすびつかないと主張してきました。戦後の武田泰淳「ひかりごけ」、大岡昇平「野火」など、ごく少数の文学者がこの問題に触れていますが、全体的にはそこから逃げたり、ぼかしたりしているものばかりという印象です。こんど、証言によって、そういうごまかしがすべて明らかになったような気がします。いろいろな証言の中で、戦後65年間、一度も外にでたことがない元中佐の話が紹介されていました。その人は証言の三ヶ月後、なくなられたということです。本当に重い重い荷物を背負って65年も生きられたことに敬意を表するとともにこころから哀悼の意を表したいと思います。この元中佐の方だけでなく証言された方の多くは、いわば墓場までもっていかずに、最後の最後で遺言のような形で語られたのだと思います。その立派さに改めて敬意を表するとともに、戦後65年間も元兵士を罪の意識で苦しめつづけた日本の戦後政治ってなんだろうと深く考えさせられます。小生は、国家が戦争の責任を回避したから、個々の兵士がその罪を背負わされたので、こういう国家はやはりやさしくない国家、品格のない国家であったと主張してきました。あの証言中佐の立派さにくらべたら、戦後すぐ政治にカムバックして、しかも戦争をやるための条約を結び、かつまた原発をつくるなどした人の人格性の違いは明らかなような気がします。もちろん、みんな傷つき、苦しみながら戦後をそれぞれ生きてきたにちがいないとしてもそう思ったりします。後、すごく気になったのは今でも、「生きて虜囚の辱めを受けず」という戦陣訓のもと、捕虜になったこと、その行為を選択したことに疑問符を持ち生きている方がいられるということです。この批判をされる証言者もやはり貴重な戦後65年を生きてこられたわけで、国家の戦争の罪深さをほとほとしらされます。日本人は、戦後65年たった今でもまだ、本当の意味で戦争総括をしていないのだということがわかります。この特集は、あの戦争を「アジア」の「民衆に包囲された戦場」という視点をもとにどう兵士たちが生きたのかをまとめたものですが、戦場での真実の証言だけでなく、捕虜=恥として今も生きている方のコメントも収録していて、改めて戦争は終わっておらず、未形のものとして今でもあの戦争とはなんだったのかをわれわれに問う形になっていて、そこがまたすばらしいところでもあります。戦後65年たった今現在の元兵士の状況を多面的、多層的に照らし出していて、本当に、工夫がなされたいい番組だと思いました。こういう骨のある番組をこれからも一層継続して制作してほしいものです。(前田角藏)
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