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 お久しぶりです。もう少し芥川のことでも書ければと思っていましたが、9月は高校の新学期で、いろいろ振り回されて、なかなか書くことができませんでした。すみません。今日は高校の文化祭です。私は文芸部の顧問をしているのですが、今年は「物語研究――子供の読めないグリム童話」というタイトルで展示発表を行っています。グリム童話を素材に、物語を恣意的に読むのではなく、まずストーリー、プロット、語りのメッセージという手順できちんと分析してみようということと、グリム兄弟の意図を超えて、収録された個々の物語(「赤頭巾ちゃん」「灰かぶり」「ヘンゼルとグレーテル」)のなかに、どんな歴史社会的、文化的背景があるのか、童話という視点を超えて読んでみようということと、二つの視点からグリム童話にアプローチしてみました。
 最初、生徒の発表する作品が少ないかもしれないと、私も「ブレーメンの音楽隊」についての文章を書いて、いざとなったら生徒の名前で発表して場所を埋めようと思っていたら、幸い生徒の作品だけで会場を埋めることができました。しかし残念ながら「ブレーメンの音楽隊」の文章はどこにも発表できなくなったので、せっかくですからここに発表させていただくことにしました。

「ブレーメンの音楽隊」について
 ロバ、イヌ、ネコ、オンドリ、いずれも人間の生活に密接し、人間の生活に役に立っている動物です。彼らは人間の生活に役立たなくなったというだけで殺されようとします。(オンドリはお客をもてなすためにいきなり食べられそうになります。)そこで12月の寒空のなか、彼らはブレーメンの街に行って音楽隊の仲間に入れてもらおうと、生きる望みを求めて旅立ちます。
 彼らが目指したブレーメンは、共和制の自治都市としては、ドイツで最も古い歴史を持っています。神聖ローマ帝国時代においても、ブレーメンは帝国自由都市の地位を確保していました。また、ドイツ史上有数の惨禍であった三十年戦争の際も、かつてのハンザ同盟の仲間であったハンブルク、リューベックと同盟を結び、独立を守りきることが出来た自由と独立を象徴する都市でした。(ブレーメン市のサイトを参照)
 しかし役に立たなくなったものが捨てられる、殺されるというのは、そんなに昔の世界の話ではありません。昔の世界は、人々の共同性によって築かれ、みんなが支え合って生活していました。たとえ労働力としては役に立たなくなった人間でも、古くからの事を知っている老人は村の秩序を維持するために大切にされていました。孤児や、たとえ人々に役にたたないと思われるような人々でも、差別はあったにせよ、彼らは村から養われ排除されたり、ましてや殺されたりなんてことはなかったのです。
 そのような世界が壊れたのは、共同体が崩壊し、人間が個人の力で生きていかざるをえなくなった時代になってからです。自分を労働力として提供して報酬をもらって生きなければならなくなった時代――所謂市場経済が世の中を支配しはじめた時代(資本主義)の時代になってからなのです。
 田舎にくらべ、とくに都市ではお金による人々の支配と共同体の崩壊が、いち早く進行したと考えられます。市場経済の浸透によって、労働力として役に立たなくなるということはすなわち死を意味するようになりました。(今の社会みたいです)聖母マリアの日の翌日(日曜日)にオンドリが食べられそうになるというのは、神様なんてもう役に立たないというキリスト教への皮肉でしょうか。(事実かれらは神様に頼らず、自らの知恵と団結によって幸福を勝ち取ったのですから。)「ブレーメンの音楽隊」の動物たちが象徴しているのは、そのような過酷な社会から排除された人々です。とにかく彼らが自分の身は自分で守るしかないという厳しい世界を生きていたのです。そして泥棒は力しか頼ることのできない弱肉強食の社会の象徴でしょう。
 役立たずとして殺されそうになったロバ、イヌ、ネコ、オンドリたちは同じ境遇同士、力を合わせ、知恵を絞って、弱肉強食の社会の象徴である泥棒たちから住処を奪い、最後に自分たちの安住の土地を見つるのです。このお話は、冷酷な社会に対する弱者の精一杯の抵抗の物語であり、そしてそのような彼らに共感する暖かい無名の語り手(グリム兄弟ではありません)の視点を読み取ることができます。                (高口)

 

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